トップページ  私の電子工作  閑  話 

リンク

掲示板
7.ディスクリート・ポータブルヘッドフォンアンプの設計・製作
7.1 回路設計とシミュレーション

準備としてエミッタ接地からプッシュプルまでシミュレーションしましたので,いよいよヘッドフォンアンプの設計です.

ネットで報告されている自作のヘッドフォンアンプは,Chu Moy Ampタイプと普通のトランジスタ類を組み合わせて作るディスクリートタイプ,オペアンプを入力段にして,バッファをディスクリートで構成するタイプと三つの系列に大別することができそうです.むろん「でぃすとーしょんWaHooh!!」さんのようにこの分類には属さないものもあります.

もっともよく見かけるのは,Chu Moy Ampタイプです.このサイトの最初に紹介したミキシングアンプもやはりこの系列といえます.人気がある理由は,手間も含めて,圧倒的にコストパフォーマンスがよく,比較的簡単に安定した動作をするものを製作できるからです.ただ,設計,製作を楽しむという点では物足らない感じがします.そこで今回は,せっかくのシミュレーターを活用する意味でも,ディスクリートで設計,製作を試みようと思います.

設計目標を立てます.ポケットサイズ,せいぜいタバコ箱くらいを目指します.当然乾電池駆動になりますが,連続使用で少なくとも10時間程度を確保したいところです.次は機能ですが,16ないし32Ωのインピーダンスを持つヘッドフォンに対して出力は20mWは欲しいところです.周波数特性は20-20kHzを-3dB以内でカバーできることです.歪率などもそれなりに考えたいのですが,これは結果オーライでいくことにします.あとはコストをかけずに,できるだけありきたりの部品で作ることです.

ここまで企画して参考にさせていただいたのが,「My Toy Box 〜 わたしのおもちゃ箱」さんが設計された「充電式かんたんヘッドホン・アンプ / 2SK170単段増幅+2SA1020/2SC2655 SEPP-OTL」です.このコピー機を作ろうかとも思いましたが,シミュレーションをしてみたところ,結果が思わしくありません.

上の図がシミュレーションした回路とその結果です.出力が-0.4Vでクリップしています.これはオリジナルが,出力側のインピーダンスを70Ωとしていたのを,16Ωにしたためですが,よくあるポータブルのヘッドフォンでは出力不足の恐れがあることになります.周波数特性も10kHz以上で落ち込みが早いです.「わたしのおもちゃ箱」さんのサイトには,性能の実測結果が掲載されていて,すばらしい周波数特性を出していることが実証されていますから,シミュレーション結果がヘンなのは,おそらくは,ネットから入手した2SK170のSpice Modelの数値設定がどこかズレているせいなのだろうと思います.しかしながら,このままコピー機を作ってしまいますと,「設計にシミュレーターを活用する」という方針がまっとうできないことになります.

というわけで,設計してみた回路がこれです.電池に充電式積層006Pを使うことを想定しましたので,充電回路が必要になります.これも「わたしのおもちゃ箱」さんの回路をほぼコピーさせていただき,DC充電時のモニター用にLEDを点灯させることにしました.

 

「2SC1815単段増幅+2SA1015/2SC1815 SEPP-OTL」というあたりまえの構成になりました.すなわち,増幅段を2SC1815の普通のNPNエミッタ接地にし,プッシュプルのコンプリメントペアを2SA1015/2SC1815にしただけです.回路の特徴としてはプッシュプルのトランジスタのバイアスをLED1個で構成している点です.これは,「わたしのおもちゃ箱」さんにあるアイデアをそのままにしています.この回路のシミュレーション結果はなかなか面白いものになりました.

まず消費電力は,この回路のアイドリング時の電流は5mA足らずで,少々鳴らしても8mA,思いっきり鳴らしたとして15mA程度です.平均で8mAとすると充電式積層006Pの高容量タイプが300mAHrなので,300÷(8×2)=18.75なので使えば10時間以上は使えそうです.

 

出力のほうは電源が9Vなら32Ωインピーダンスのヘッドフォンに1.4Vまで出力できます.これはおよそ60mWの出力になります.6V程度まで電源電圧が下がっても,ほぼ22mW@0.84Vの出力です.

 

周波数特性は高音側は-3dB@20kHzをらくらくをクリアできますが,低音側は-3dB@19Hzでクリアです.最終段の220uFの結合コンデンサの容量を増せば,もう少しらくにはなりますが,そこまでやることもないでしょう.バイアスのLEDに流れる電流は,出力が10mWのときには1.6mA程度です.図中R7,R8の抵抗値を減らせば最大出力は増加します.2Ωなら125mW@2Vまで出せますが,アイドリング電流が3倍になります.ヘッドフォンのインピーダンスが大きいときには,この抵抗を低く設定するのもいいかと思います.

ということで,連続使用10時間,出力20mW,周波数特性は20-20kHzを-3dB以内でカバーという性能上の設計目標をなんとかできそうなので,回路設計を固定しました.

7.2 機械的設計と部品選定

次は,実際に組上げるための機械的設計です.

本来であれば,基板上に部品を合理的に配置し,それを収めることができるケースを探してくるべきなのでしょう.しかし自作される方はだれでも知っているように「ケースは高い」です.そこで,安くて使えるケースを見つけそれに収めることができるように設計することにしました.というわけで,安くて使えるケースですが,これはダイソーの100円ラジオのケースが念頭にありました.以前に興味本位で購入し,部品取りをやったもので,もはやラジオにはなりません.単四電池2本が装填できる点に心の残りありますが,わざわざタカチのケースを買う気にはなりませんでしたので,これを改造することにしました.

ケースを用意し,ユニバーサル基板,006P電池,Φ3.5ジャック,DCジャックなどをざっと配置してみます.むろんケースの余分な出っ張りは削り,基板はカットしないとなりませんが,なんとか収まりそうです.あえてボリュームはつけず,ほぼユニティゲインで電力増幅だけをやるためのアンプにします.回路中の半固定抵抗は,設定時に実際に使用するときに適当な音量となる調整と同時に左右のバランスを合わせるためです.入力はジャックではなく,Φ3.5のピンプラグを尻尾のように出すことにします.こうすれば専用のケーブルを持ち歩く必要がなくなります.

100円ラジオのケースにはバリコンのダイヤルがはまっていた窓が開いています.ここに透明な樹脂で窓カバーを取り付けようと思います.この穴から覗ける基板の裏側にバイアスにした赤LEDと充電モニターの緑LEDとを配置しようと考えています.

         

用いる部品の一覧を示します.単価に「?」がついているのは以前に購入したもので,値段の記憶が不確かなものです.購入場所が「--」も,どこで買ったのか思い出せません.固定抵抗はジャンクや手持ちがいくつかあり,それに買い足しましたが,調べるのが面倒なので1個10円にしました.配線用のコードや半田は入れていません.

部品名称

型 番  数 量 単 価 購 入場所 コ メント
トランジスタ 2SC1815 4 10.5 千石電商 10個1包装,テープもの
  2SA1015 2 10.5 千石電商 10個1包装,テープもの
電解コンデンサ 25V220uF  2 21 千石電商 10個1包装 低ESRタイプ
  25V470uF 1 40? --  
チップコンデンサ 25V0.1uF  2 4 秋月電子 25個1包装 2012タイプ
マイラーコンデンサ 50V0.47uF 2 10 --  
半固定抵抗 50V10kΩ 2 75? --  
炭素被膜固定抵抗 1/4W 21Ω 4 10    
  1/4W 470Ω 3 10    
  1/4W 2kΩ 2 10    
  1/4W 2.4kΩ 2 10    
  1/4W4.7kΩ 1 10    
  1/4W 75kΩ 2 10    
  1/4W 150kΩ 2 10    
ダイオード 1N4007 1 5 秋月電子 20個1包装
赤色LED ??? 2 20? --  
緑色LED ??? 1 30? --  
ステレオジャック φ3.5 1 105 千石電商  
ステレオプラグ φ3.5 1 84 千石電商  
DCジャック DCジャック 1 74 千石電商  
スライドスイッチ ??? 1 105 --  
ユニ バーサル基板 サンハヤト 72mm×48mm 1 100 --  
電池スナップ 「縦型」 1 10 秋月電子  
006P型Ni-MH充電池 GP30R7H 1 800 秋月電子 300mAH
ゴムシート 100mm×100mm×t 2mm 1 105 ダイソー
ダイソー100円品
ケース ダイソー100円ラジオから部品取り 1
--    
ケースの窓 FDDケースから切り取り 1 --    
           

合計金額2,000円ぐらいですが,充電池が占めている割合がやたらと大きいです.これをダイソーで売っている2個105円の006Pにすれば,DCジャックや充電モニターの緑色LEDも不要になり,合計金額は1,000円程度になります.

部品選択についてちょっとコメントしておきます.音質至上主義で行くなら,まず,コンプリペアの直流電流増幅率(hfe)を揃えるべきということになりますが,前回やったシミュレーションで,そうそう神経質になる必要もなさそうなので手を抜くことにしました.電池直結の電解コンデンサは470uFが1個だけです.これは,たまたま手元に1個しかなかったためで,左右両チャンネルに配置すべきと言われれば,そのとおりだと思います.入力段は0.47uFのマイラーコンデンサです.音質が気になるのなら,10uF程度の無極性電解コンデンサという手がありますが,手元に無かったので,これにします.出力段の220uF電解コンデンサにはウンチクを傾ければミューズ云々ときりが無いでしょうが,1000円アンプには不釣り合いですから,千石電商の通販で買える低ESR電解コンデンサにしています.

あとは実際に聴いてみて部品交換なり,組換えを考えることにします.

 

7.3 製作/ケース・基板の加工

まず,フロッピーディスクのケースを1個を犠牲にして樹脂製の透明窓つくりです.ヤスリを使った根気仕事で,目的のくぼみにぴったり合うよう調整し仕上げます.ケース内の余分な出っ張りも削り取ります.電池にスナップをつけてきちんと収まれば完成です.そして基板の加工です.まずはケースの基板受け部にきちんと合うように干渉部を落とし,電池が入る位置を確認します.さらにΦ3.5ジャックとDCジャックとを置いて,部品配置が可能な場所と不可能な場所を明確にします.

今回の製作の特徴のひとつであるLEDを透明窓から見える位置に取り付けられるかどうかを確認すると,用意していた赤色LEDは背が高すぎて窓と干渉しました.代わりを探すとジャンク(?)ものがありました.メーカーも規格も何もわかりませんがLEDには違いないでしょう.バイアスにするのであとで直流順電圧(Typ)だけは測っておくことにします(1.64Vでした).窓からLEDが見えるのはいいんですが,基板の裏側が見えると不恰好です.これをカバーするために薄いゴムの板を用意しました.再びLEDを仮置きして,ゴム板に,LEDが顔を出す穴をあけ,ヤスリで位置と大きさを調整します.

7.4 製作/部品取り付けと配線

部品の半田付けを行います.取り付ける前に抵抗はテスターで測って抵抗値を確認し,控えておきます.まずLチャンネルの部品のみ取り付けます.部品の密集度はまあまあですが,配線がちょっと厄介でした.Lチャンネルの部品と470uFの電解コンデンサまで取りつけた段階で,入力プラグ,出力ジャック,さらに電源を取り付けてちゃんと動くかどうかをチェックします.電源を取り付ける際には可変抵抗をはさみます.間違った配線をしているところへいきなり9Vがかかって,部品を昇天させることを防ぐためです.電池をスナップに繋いだあと,じわじわ電圧をあげて,熱くなっている部品がないか,ヘンなにおいがしないかをチェックします.

4Vまで電圧をかけて,回路の各部の電位をテスターで測ります.このときにSpiceを活用します.控えていた抵抗の値と電源電圧4V,ヘッドフォンの抵抗1MegΩをシミュレーターに入れてシミュレーションさせます.このときに回路各部の電位を表示させます.これと実体回路の計測結果を比較すると,誤配線を見つけることができます.シミュレーション結果と実物との差は0.1V前後で,ほぼ一致しているとみなせました.

次はいよいよ音出しです.音源にMP3プレーヤーを,ヘッドフォンには万一を想定し100円ヘッドフォンを繋ぎこみプレイさせます.当然片側だけですが,音が聞こえてきました.ちょっと聴いただけでわかるノイズや歪はないようです.電源電圧を上げると出力音も大きくなります.5分間くらいそのままにしましたが異常は無いようなのでOKとします.

回路には問題は無いようなので,Rチャンネルの部品も取り付けます.基板裏の配線がちょっとごちゃつきましたが,まあ,なんとか仕上げました.ふたたび入力プラグ,出力ジャック,さらに電源を取り付けてちゃんと動くかどうかをチェックします.4VでチェックしてOKでしたので,電圧を上げてMP3プレーヤー,ヘッドフォンを接続します.左右チャンネルが揃っての出力です.音はきちんと出ました.稼動時の電池からの電流は10mA程度でした.シミュレーションで片側4.5mAでしたから,誤差1割というところです.続いて,電源回路の部品を配置し,動作を確認して基板が完成です.

            

あとはケースに加工し,ジャック,プラグ類を取り付けられるようにします.それから基板とジャック,プラグ類さらに電池のラインをつないで完成です.

 

7.5 試聴と検討課題

目下,手元にろくなヘッドフォンが無いので,MP3プレーヤー(ADTEC/FY400)に付属のもので聴いた感想です.電池は,とりあえずダイソーの006Pを使いました.電源電圧は8.8Vでした.

出来たてアンプから聴こえてきた音はMP3プレーヤーから直に聴いたときに比べ,あまりクリアな感じがしません.ノイズがのっているという意味ではなく,どちらかというと重い,すこし曇った音です.低音は明らかに太くなっています.バスドラムやベースの音はズンと響く感じです.これに対して中音域はすこし引っ込んだ感じになりました.高音はさほど伸びている感じがしません.

一回目の試聴を30分で切り上げ,寝る前に充電のセッティングをしました.電池をGP30R7Hに入れ換え,DCジャックに12VのDCアダプターを接続しました.翌朝チェックすると電池の出力電圧は8.2Vになっていました.充電回路は大丈夫のようです.

出力段に電解コンデンサを用いていますのでエージング効果があるかも知れません.MP3プレーヤーを接続し12時間鳴らしつづけました.電池はもつようです.二回目の試聴をしました.はじめの状態と直接に比較できませんが,曇りが取れてきた感じです.低音はやはり強いですが,引っ込んでいた中音域もいくらか出てきた感じでバランスが取れてきました.しかしながら高音は依然として物足りない感じです.

エージング効果を期待するには,数十時間必要とのことなので結論を出すのはまだ早すぎるでしょうが,期待していたほどの音はまだ聴こえていません.検討課題のひとつはやはりコンデンサでしょう.ただコストパフォーマンスを考えるといわゆる音楽用コンデンサは購入するのはためらわれます.もうひとつの課題はフィードバック抵抗値です.R3/150K,R4/75Kという設定にしましたが,R3/75K,R4/39K程度にしてみようかと思っています.

>>>>>>>追記>>>>>>>>

製作後,どうも半田不良らしい挙動がありましたので,一度,半田箇所を全部チェックし,気になるところはやり直しました.それから夜間電池に充電し,昼間MP3につなぎ鳴らしっぱなしにするという,たいへん地球に申し訳ない所業を4,5日やらかしてました.その後は,忙しさにかまけて放置していました.

ようやく時間が取れました.トリノオリンピックも見るべきものがありませんので,あらためて聞き直してみました.半田をやり直した以外,部品は変えていません.結果から言うと,うんとよくなった感じです.製作直後の音とダイレクトに比較できないので印象だけなのですが,曇りがとれて,中,高音も聞こえるようになってきました.飛び出していた低音もどっしり感として聞こえてきました.家内になにも説明せずに聞かせてみたところ「音が力強くなる」とコメントしました.ノイズは私の貧弱なヘッドフォンでは聴こえません.

回路はいじりがいがあります.むろん,コンデンサをいいものに換える手はありますが,その前にいくつもやることがあります.まずフィードバック抵抗の適正値は音で確かめるしかないでしょう.R5とR6もシミュレーションで値を決めましたが,まだまだ詰める余地がありそうです.プッシュプルを構成する1815/1015のコンプリペアを別のコンプリペアに換えてみるのも一興です.LEDの種別を変えるとプッシュプルのバイアスの深さが変わります.これも相当に音質に反映するでしょう.

以前のままの音でしたら,「このレシピで作ってみるのは止めといたほうがいい」と言わなくてはなりませんでしたが,今なら「まあ,1000円で半田遊びするのもいいかも」程度は言えそうです.Chu Moyにあきてしまった人,皆とはちょっと違うものを試してみたい人,ディスクリートという響きに惹かれる人にはちょうどいいレシピではないかと思います.

トップに戻る